ひな祭りのお祝いにちらし寿司を食べる理由は、お祝いの席にふさわしい具材が多く使われているからだと言われています。
ちらし寿司の起源は、「なれ寿司」という魚を発酵させた保存食で、見た目がとても地味でした。
しかしこのなれずしに縁起の良い食材が少しずつ使われるようになり、徐々に華やかさを増していったのです。
こうしてお祝いの席にふさわしい意味を持った食べ物として進化を遂げたちらし寿司は、今ではひな祭りに欠かせないものとなり、定着したのです。
この記事では、ひな祭りにちらし寿司を食べる理由と縁起の良い具材の意味について詳しくお伝えしていきたいと思います。
ひな祭りにちらし寿司を食べる理由
ひな祭りにちらし寿司が食べられるのは、女の子の健やかな成長を祈るひな祭りにぴったりの、縁起の良い食材がたくさん使われているからです。
平安時代から、日本には祝事の際にはお寿司を食べる習慣がありました。この時のお寿司は「なれ寿司」という、魚をご飯につけて発酵させた保存食でした。
腐ることを避けるために寒い冬に魚を漬け、長い時間をかけて発酵させます。ちょうど食べ頃になるのが3月のひな祭りの頃だった為、ひな祭りに食べられるようになったと言われています。
このなれ寿司は保存食ということで、彩については一切考えられておらず、お祝いの食べ物にしては見た目が地味でした。
その後、室町時代に登場した「酢」を使うことで、様々な野菜や魚介類を使って寿司を作ることが出来るようになったこともあり、なれ寿司から見た目にも華やかなちらし寿司が食べられるようになったのです。
ちらし寿司はさらに時代が進むにつれ、様々な縁起の良い具材が加わっていき、お祝いの席に相応しい食べ物として進化し、ひなまつりのお祝いごとに欠かせない食べ物として定着していったのです。
ちらし寿司の具材に込められた意味
ちらし寿司に使われている様々な具材にはお祝いの席に相応しい意味があります。使われる食材については地域などで違いがありますが、代表的なものをご紹介します。
●海老=長寿
背中を丸めた形をしているため、「背中が丸くなるまで長生きできますように」という願いが込められています。
●蓮根=見通しが利くように
蓮根は穴があって先が見えることから「将来を身通ることが出来る」という意味を持っています。また、蓮根は種が多いため、「子供がたくさん生まれる」という意味も持っていると言われています。
●豆=健康に働けますように
昔は健康や丈夫という事を「マメ」という風に表現していたため、マメに働けるように=健康に働けるように、という意味があります。また『まめな性格になりますように』とも言われており、良妻になるようにとの願いがあるとも言われています。
●ごぼう=長寿
ごぼうが細く長く根を張る様から「細く長く生きていけるように」という願いが込められています。
●菜の花=成長
菜の花は芽を出すため「芽を出す=よく成長する」という意味があると言われています。
●サザエ=繁栄
サザエを漢字で書くと栄螺ですが、当て字で『三三栄(さざえ)』とし『3月3日に栄える』という意味があると言われています。
ただ、サザエは高級食材のため、なかなか手に入らず、代わりにアサリを入れるようになったと言われています。
●いくら=子孫繁栄
イクラは鮭の卵で、鮭は非常に強い魚です。その鮭が産む卵は「子宝に恵まれる」という意味があると言われています。
子宝に恵まれるには『良い相手との結婚』が欠かせませないため、良縁祈願にも通じる食材とも言われています。
一つの料理の中にたくさんの具材を入れて作る「ちらし寿司」は、それぞれの家で思い思いに縁起の良い食べ物を入れて作る事が出来るため、祝事の食べ物として広く親しまれるようになっていったとも言われています。
ひな祭りのちらし寿司以外の食べ物
ひな祭りにはちらし寿司以外にもお祝いの席に相応しい意味を持った食べ物があります。それぞれに女の子の健やかな成長を祈る行事に合った意味があるのでご紹介します。
●蛤(はまぐり)のお吸い物
蛤のような二枚貝は対の貝以外では合わないということから、相性の良い相手と結ばれ生涯添い遂げられるようにとの願いが込められています。
●菱餅
緑、白、赤の3色の餅を菱形に切って重ねた餅です。緑=健康や長寿、白=清浄、赤=魔除け の意味を持ち、娘の健やかな成長を願う親の思いが込められています。
また、緑のよもぎ=増血効果、白のひしの実=血圧を下げる、赤のくちなし=解毒作用とそれぞれの色に練り込まれている材料には、健康維持に役立つ作用が含まれています。
●ひなあられ
昔、お雛様にも春の景色を見せてあげる為に、野山に雛人形と一緒に出かける「雛の国見せ」という風習がありました。その際にお菓子を持ち歩いていたのですが、「菱餅では持ち歩くことができない」と作られたのがひなあられです。
赤、緑、黄、白の4色でそれぞれ四季を表していると言われ、でんぷんが多く健康に良いことから「1年中娘が幸せに過ごせるように」という願いが込められています。
●白酒
元々は桃の花びらを漬けた「桃花酒」というものが飲まれていたと言われています。桃は邪気をはらい、気力や体力の充実をもたらすということで、薬酒のひとつとして中国から伝えられましたが、江戸時代からは甘みのある白酒が親しまれるようになりました。
白酒はアルコール度数が10%程度あり、子供は飲むことが出来ないため、現在はアルコールのない甘酒が飲まれることが多くなりました。
現在ひな祭りにちらし寿司が食べられているのは、ちらし寿司に縁起が良くお祝いにふさわしい食材が多く使われているからです。
このちらし寿司を食べる習慣は、ひな祭りの行事が始まった当初からあったわけではなく、祝事に食べられていた地味ななれ寿司が、女の子の健やかな成長を願う「ひな祭り」に合わせて変化していった結果出来たものです。
見た目の華やかさと共に、縁起の良い食材をたくさん加えていくことで次第に、華やかな女の子のお祝事の食べ物としての色を強めていきました。
この、ひなまつりのちらし寿司を食べる習慣は、長い年月をかけて作りあげられ、現在の私たちに定着したものだったのです。